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兩處情牽夜夜心

るか見てみれ

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るか見てみれ


 早苗は、半信半疑だった。
「証券会社からのニューズレターなんかをご覧になったことはないですか? 株式市場の動きを記述するのに、どういう言葉が使われていば、よくわかりますよ。たいがいこんな具合です。市場のセンチメント[#「センチメント」に傍点]は、弱気と強気が交錯[#「弱気と強気が交錯」に傍点]。先行き不安感[#「先行き不安感」に傍点]から、神経質な[#「神経質な」に傍点]値動き。大量の不良債権の存在を嫌気して[#「嫌気して」に傍点]の投げ売り。輸出の伸びを好感して[#「好感して」に傍点]、下値で買いが入る。景気回復の遅れを悲観して[#「悲観して」に傍点]急落。こうした言葉から、あなたは、どんな人々をイメージしますか?」
「ううん……もちろん比喩《ひゆ》なんでしょうけど、感情的な表現が多いですね」
「ところが、単なる比喩とばかりも言えないんです。実際に、株式市場での値動きを見ていると、きわめて情緒に流されやすく、衝動的に行動する女性ばかりが売買しているように見えてくるから不思議です。……いや、女性|蔑視《べつし》のつもりはありませんけどね」
 早苗は軽く高梨を睨《にら》んだ。
「女性イコール感情的だというのは、偏見ですよ」
「その通りです。実際、株式投資を行っているのは、大部分が男性ですから。それも、かなりの知識と経験を積んだ人々が多いはずなんです。にもかかわらず、彼らの行動は、非常にヒステリックで気まぐれです。まるで、暗闇《くらやみ》の中で右往左往している群衆のような感じですね。ちょっとしたデマが飛んだだけでも、たちまちパニックに陥る」
 人間というのは、一人一人は賢くても、群衆になったとたんに愚かな行動をとる傾向がある。株式市場の熱気は、人の理性を麻痺《まひ》させる効果があるのかもしれないと、早苗は思った。
「こうした人々を動かすのは、経済理論でも、長期的なビジョンでもない。わかりやすい物語なんですよ」
「物語?」
「個々の株価を左右する、もっともらしいストーリーです。画期的な新製品を開発した。その製品に致命的な欠陥が見つかった。巨額の簿外債務が発覚した。社長が地検に取り調べられた。外資からM&Aの申し出を受けているらしい。などなどです。しかも、彼らは、そういった物語が真実かどうかにすら関心がないんです。ただ、それが一時的に株価を押し上げ、彼らが売り抜ける間だけ破綻《はたん》せず、市場で通用してくれれば、それでいい。あるいは、逆に株価を引き下げてくれれば……」
 高梨は、ティーカップを持ったまま、薄く笑った。
「僕が最初に株に手を出すようになったのは、証券会社の営業マンのしつこい勧誘に根負けして、NTT株を引き受けてからですが、それをきっかけにして、興味を持って市場の動きを見るようになりました。すぐに、これは経済学が律する世界ではないと直感しましたよ。市場は明らかに、経済学ではなく、ゲームの理論と心理学によって動いている。人間の心理を見通す力がある人間には、儲けるのはたやすいのではないかとね。参加者のうち多数がどちらを選択するか、売りか買いかを、一瞬早く予測できれば勝ちというわけです」
「心理学ですか……」
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